看護

精神科の入院形態

精神科の入院形態は一般科の入院形態と異なる部分があります。それは、一般の病院に入院する患者様と異なり、病識が低い患者様が多く、入院に同意いただけない場合があるためです。

この精神科での入院形態は4形態(5種類)あるのですが、法律(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)に基づく極めて重要なものです。なぜならば、患者様の同意を得ない入院が含まれるためです。こういった同意のない入院には、人権侵害の恐れがあるため、人権保護の観点から、これらは医療職者として必ず知っておかなければなりません。

しかしながら、私も含め、看護学生、看護師、その他医療職者も間違えてしまうことがありますので、以下にまとめます。

任意入院(法第22条の3)

対象:入院を必要とする精神障害者で、入院について、本人の同意がある者

要件等:精神保健指定医の診察は不要

これは一般病院での入院と同じです。本人の同意のもとに入院をする場合です。精神保健指定医とは、簡単にいえば、厚生労働大臣が認めた精神科のスペシャリスト医師です。

医療保護入院(法第33条)

対象:入院を必要とする精神障害者で、自傷他害のおそれはないが、任意入院を行う状態にない者 

要件等:精神保健指定医(又は特定医師)の診察及び家族等のうちいずれかの者の同意が必要 

強制性のある入院、つまり本人の同意がない入院の中では、一番多い入院形態です。上記の医師が入院の必要性を認め、かつ、家族等のうちいずれかの者の同意がある場合の入院です。

一般に(例:人権を守る弁護士さんのwebページ等)任意入院以外は、強制入院と呼ばれたりもしますが、厚生労働省のwebページでは強制性のある入院との表現になっていますので、本ページでも、強制性のある入院と表現させていただきます。

家族等とは・・・。

厳密には、特例ですが、緊急性のある場合は、12時間に限って特定医師の診察、及び家族等のいずれかの同意をもって入院が可能となっています。特定医師については、次の項目で説明します。

応急入院(法第33条の7)

対象:入院を必要とする精神障害者で、任意入院を行う状態になく、急速を要し、家族等の同意が得られない者 

要件等精神保健指定医(又は特定医師)の診察が必要であり、入院期間は72時間以内に制限される。  (特定医師による診察の場合は12時間まで) 

特定医師とは、特定病院(都道府県知事により認定される)に勤める精神科の臨床経験が豊富な医師のことです。先に述べた精神保健指定医のように厚生労働大臣に認められた資格ではありませんが、精神の治療に長けた医師のことです。

精神保健指定医になるためには、ハードルが決して低くはなく、日本全国にいつでも、精神科指定医がいるわけではありません。そのため、「緊急時における入院等に係る診察の特例措置」として、特定医師による診察、強制性のある入院も期間を限定して認められています。

しかしながら、特定医師による診察の場合は、時間制限が12時間と短いため、早急に精神保健指定医に引き継いで患者様の診察をしてもらう必要があります。また、この応急入院では、精神保健指定医師でも72時間という制限があります。そのため、病院側は、家族等のいずれかの同意をいただき、医療保護入院や、他の入院形態に切り替える必要があります。

措置入院(法第29条)

対象:入院させなければ自傷他害のおそれのある精神障害者

要件等:精神保健指定医2名の診断の結果が一致した場合に都道府県知事が措置

本人の同意もなく、家族等の同意もなく、行政による入院の命令です。これは、あまり区別することもないですが、通報する人により法律が分かれています。誰から誰に通報するのかというところで、混乱しがちなので、簡単に説明しておきます。精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律、第22条は、一般市民による診察及び保護の都道府県知事への申請です。23条は、警察による保健所長へての都道府県知事への通報。24条は検察による都道府県知事への通報です。

私の経験上ですが、多いケースは23条です。一般人が街中で自傷他害行為を行う人を見かけた場合は、まず警察に連絡することが多いはずです。自分で、都道府県知事に申請書を提出するほどの知識があったり、余裕のある人は現実的には稀ではないでしょうか・・・。そして、警察官が現場に向かい、精神治療の必要があると判断されれば、警察からの都道府県知事への通報、その後、警察官と共に患者様は病院に来院、指定医により診察され、入院の必要性が認められれば、入院となります。(23条通報による措置入院)

補足ですが、措置入院の場合は、特定医師による特例は認められておらず、強制性のある入院は実施することはできません。

緊急措置入院(法第29条の2)

対象:措置入院と同じ

要件等:急速な入院の必要性があることが条件で、精神保健指定医の診察は1名で足りるが、入院期間は72時間以内に制限される。

措置入院の対象である患者様がいるが、指定医が1名しかいない場合は、緊急措置入院となります。通常、72時間以内に、他の指定医が診察し、措置入院に移行する、もしくは家族等の同意を得て、医療保護入院に移行します。

出典・参考文献

医療保護入院制度について(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000115952.pdf

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく入院形態(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001knbk-att/2r9852000001kzdp.pdf

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(厚生労働省)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0100000123_20230401_504AC0000000104